ふと

ふと出会った道端の草花、不思議な場所、ふと手にした興味深い本..。.日常の中のふとしたことを綴ります。

乙女の港

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 きょうは軽く、最近読んだ本の感想を。。
昭和初期に流行った少女雑誌に掲載され、人気を呼んだという少女小説。なんと川端康成の作というのに惹かれて読んだ。

 舞台は昭和12年当時の横浜のミッション系の女学校。尋常小学校を卒業した少女たちが進学する学校で、主人公の気弱な美少女は1年生だから12、13歳。物語は彼女が入学するやいなや相次いで上級生から、品のいい(としか言えない)、“ラブレター”をもらうところから始まる。

 

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驚かされたのは、エスというらしい彼女たちの関係!! この時代、女学生たちは気軽に男女交際ができない代わりに?上級生と下級生の美少女同士がまるでいいなずけのような間柄になり、毎日手紙をやり取りしたり、待ち合わせて下校し、どちらかの家でご馳走になったりする女学生ならではの風習?があったようなのだ。文庫の帯には瀬戸内寂聴さんが「当時はわたしも女学生で、下駄箱の靴の中に下級生からのラブレターが入っていたり、上級生からお菓子を贈られたりしていた。同性同士の友情は、一種の疑似恋愛だった」という文章を寄せており、説得力がある。日本が泥沼の戦争に入る前、つかの間の平和なひととき、上流家庭の子女には、こうした青春が本当にあったのだ。

決して同性愛とは違う。かたくなにその人を思う気持ちは「愛」そのものだけれど、男女の愛ではなく、無償の愛=アガペーといったもの、ともまた違う。でも一つの愛の形であることには間違いない。

この小説は実際には川端康成が書いたものではなく、弟子のような存在の女性小説家の実体験に基づく作品を川端が丁寧に指導し、手直しして掲載したものとか。物語の流れや出てくる用語に多少雑なところがあるのでそれならば納得できる。

それにしても文豪の表現力は少女小説の中でもすごい。

「三千子は心の中の脆い夢が、急に崩れて、生きて行くということが、どんなことであるか、目が覚めた思いがする」

時々はっとする一文に出会ってドキドキした。

川端もだが、挿絵を描いた中原淳一も、ホモセクシュアル志向を持っていたらしいので、きっとドキドキしながら原稿を直し、挿絵を描いたことだろう。

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私たち(特に1960年代以降生まれのわたしのようなおばさん世代)にもこんな風習はあっただろうか?? 女の子同士、“交際する“という感覚はなくとも、「一人の親友」がほしかったし、人気の高い女子はいた。自分の感覚でいえば、高校生ぐらいまでは友達同士、本当に中の良い子となら、手をつないで歩くのも嫌でないような感覚を持ったことはあった、とここに告白しよう。。
でもやっぱり、少女小説は、日本の美少女物より、赤毛のアンや、少女パレアナとか海外物が良いかなあ。読んで爽やかだし、この歳になっても憧れる。結局のところ、そう思った次第でした。

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